何度忘れようとしても
「井川さん、色々ありがとうございました」

と佐伯くんが言った。

佐伯くんの方を見ると彼は、これが本当に最後みたいな表情をして私を見ていた。
そんな目で、見ないでよと思った。

「やだ、まだまだ先でしょ。お礼言うの早すぎだよー。でもフランス、良かったね。語学が生かせるじゃん」

わざと明るく優しく言った。

「しばらく前から希望出してたんです。海外行きたくて。フランスにもう1回住んでみたかったし」

あまりにも彼がすっきりと答えるので私は思わず聞いてしまった。

「ねえ彼女は、連れて行くの?」

< 208 / 222 >

この作品をシェア

pagetop