何度忘れようとしても
私は、佐伯くんの話を黙って聞いていた。
どれだけのエネルギーを使ったか知れないその佐伯くんの大変革を、私の知らない所で本気で悩んでいた彼の気持ちを、少しでも感じてあげる事ができてたら良かったのにと今更思った。

「井川さんと、離れるのは寂しいですけどね」

「なんでそんな事を言うのよ」

引き続き、佐伯くんが真面目な顔で言うので私はおまけみたいだけど、嬉しいわよという感じで受け止めた。
でも彼は大真面目なままで、言った。

「だって、もうしばらく会えないんですよ」
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