何度忘れようとしても
なんで、キスされたのかも分からなかった。
でも佐伯くんは、言った。

「戻ってくるから。井川さんにその時、彼氏が居なかったら迎えに行くから」

佐伯くんの言っている事はめちゃくちゃで、私は余計、悲しくなって泣いた。
そんな私を抱きしめるわけでもなく、佐伯くんは静かに見ていた。

化粧品の香料がうっすらと香る、冷えた倉庫の床の上で私たちはただ、しばらく向き合っていた。
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