本と私と魔法使い
「アーベル様がお呼びです。いつものように奥の部屋でお待ちです」

しかめっ面でいい放つアイリスにあら?とサリサは眉をひそめ、

「アイリスはアーベル様が嫌い?」

「えぇ。…忌み子だと捨てられた私を拾い、この屋敷においてくださるアーベル様には感謝しています…けれど、あの方は…」


続きの言葉をいう前に白くて長いサリサの指によって口を封じられる。
困ったようにサリサは笑った。

「あれで寂しい人なのよ…アーベル様は。じゃあ、あたしは会ってくるわね」


ドレスをたなびかせ、屋敷の中へ入っていくサリサ。

魔質を持つアイリスが生まれた時、天が赤く染まり、雷鳴が轟き、その近くにいた数人が急な死に至った。
不幸の前触れだ、忌み子と両親はアイリスを捨てこの地を去った。

そもそも魔質とは常人には扱えず、理解することも出来ない、不可能を可能へ変換する明瞭かつ曖昧な力。

その力を人々は恐れるため、大概の魔質の者を小さい頃から軟禁生活を強いられることになる。

それを助けてくれたのは、アーベル様そして、
サリサ―…

最初の一年はこの屋敷に慣れるので必死だったが、落ち着いてから気づいたことがある。


「…アーベル様とサリサの関係…」

サリサへの執着が激しいアーベル。
最初は愛情、慈しみなのだと思っていた。
けれど、これは歪みきってあまりに…。


アイリスは奥の部屋に入った事がない。

入ってはいけないと、

一番始めに注意されたから。


入ってしまえば、何かが壊れてしまうような気がした。
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