本と私と魔法使い
サリサがアーベルの元に行っている間に掃除しようと、サリサの部屋に入る。

「相変わらず、汚いですのねー…。」

書類がバラバラ散らばり、ドレスも脱ぎ散らかっている。潔癖症の気のあるアイリスはため息をついた。

落ちっぱなしの本を本棚に片付け、埃をはらう。

―ギィッ

ふいに窓の開く音がして、ふりかえると、

「サリサー、会いに来たよ…って、あれ?…きみは?」

男は窓をよいしょ、とよじ登りながら、のほほんと優しそうな緑の目を細めた。明るい茶色の髪がふわふわ、日向の光に照らされた。
ていうか、ここ二階…。


「な、誰ですの!この屋敷に侵入する不届きも…っ」
アイリスが叫ぼうとすると大きな手が口を塞ぐ。


「はい。しぃー、ね。アイリスは声がもろ好みなんだけどよく通るからぁ…」

この少し人を小馬鹿にしたような態度の男は…。


「多季っ!!何するんですの…。この方は窓から入ろうとした不届き者ですのよ!!侵入者ですのよ」

アーベルに一番近い側近だ。女たらしの鬱陶しい男。

「いや、だからさぁ、悪い人じゃないって…」

「窓から入ってくる方に良いも悪いもありません!!非常識です!!」


そう言いきり、拳を固めながらアイリスは今から叩き出してやります、と言う。

「え、ちょ、待ってよ。おれ、怪しいものじゃ…」


窓枠に必死にしがみついていたけれど、

「あ、」

ぐらり、と男の体が傾き、

「あ」
アイリスが声を出したときには遅かった。

「うぁあああっ!!」

男の体は真っ逆さまに落ちていく。


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