本と私と魔法使い
「お互い好きになっちゃったんだから、仕方ないでしょうが…注意はちゃんとしてるよ?」


「多季も知っているでしょ?アーベル様がどれだけ…サリサに執着なさっているか」

サリサは、この屋敷からほとんど出たことはない。
アーベルが行動を制限しているからだ。
この事が彼にどれだけの影響を与えるかわからない。

「大丈夫だぁって…、アルザもイイヤツだからさ、」

「そんなこといくら分かっても仕方ないです…。」


はぁぁっと深いため息をつくと、多季はアイリスの腰に腕を回した。

「ちょっっ、ふざけないでくださいっ」
ぐいっと腕を押しのけようとするが出来ない。

「ふざけてないよー。本気だってぇ…、好きなコに本気でみてもらえないってつらいねー」

いつものような軽い口調。アイリスは形の良い目をつり上げて言う。


「知ってますのよ?あなたがどれだけの女性を口説き落としているかぐらい…、そんな、頭がわいたとしか考えられない男の言うコトを誰が信じますのーっっ!!離してください」

「相変わらずアイリスの声は良いね。例えそれが僕に対する罵詈雑言だとしても愛せるよ」

「相変わらずあなたは変です…、喋ってると疲れます…前々から言ってますよね?相手にして欲しければ、アイリスの花を持ってきてと、まぁ、このあたりには咲きませんし、ありませんけれど」


もう一度深いため息を落とした。こんな人がアーベルの側近だなんて…。

不安な気持ちをよそに雲ひとつない青空だった。



―…
< 181 / 251 >

この作品をシェア

pagetop