本と私と魔法使い
散歩からサリサが帰ってきたのは日も暮れた頃だった。サリサの部屋で待っていたアイリスは、

「待ちくたびれましたよ…、サリサ」

「あら、待っててくれたのね?」

いつもと変わらないゆったりとした口調にアイリスは厳しい声をかける。


「いつからですの?」

「ふふ、言ってなかったかしら?」

「な、ん、で…っ、あなた方はそんなに呑気ですのーっ!!」


アイリスがこらえきらず叫ぶと、つんっ、とサリサはアイリスのおでこをはじき、大丈夫よ、と笑った。


「好きなんですか…?アルザさんのことが」

はじかれたおでこに手をあてて、アイリスはサリサを見た。サリサはベッドに座り、

「好きよ…もちろん」


サリサの青の目が宙を睨む。この顔をアイリスは前にも見たことがあった。

閉じ込められていたアイリスを助けてくれた時、自分のもとに置くと言ったときの顔。
覚悟を決めた顔…。
サリサのそんな顔にとことんアイリスは弱い。ぷいっと顔を背け、


「…知りませんからね、…出来る限り、助けようと思わないこともありませんけれど…」

サリサは素直じゃない物言いに苦笑した。


「アイリスこそ多季とはどうなのー?」

「は…?…それこそ、ありえません…けどっ!!」

「あやしいわねー」

にやにやしながら笑うサリサをアイリスは睨む。


「ちゃらんぽらん男は眼中にありません」

もうおやすみなさってください、とサリサに言ってアイリスは顔を赤くしながら部屋を出ていく。
サリサはその姿にひとしきり笑った後、息を吐いた。

「いつまで囚われているの…?あたしはただの―…」
その言葉は夜の静けさに吸い込まれた。


―…
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