ノンシュガー・ノンビター【VD中編】
「(…って!また誰かに会ったら洒落になんねぇよ…!!)」
今さらながらきょろきょろと辺りを見回し、誰も知り合いがいないことを確認して帰路に着いた。
平坂に俺の想いがバレたことでかえって気持ちが楽になったのか、俺の足取りはさっきと打って変わり軽いものだった。
行きには長く感じた道のりもあっという間のもので、疲れた様子もなく定期で改札を通り抜ける。
ピッと鳴る何百回と聞いた軽快な電子音。
ただ、やっぱり、鞄の中で明日を待ち遠しくしているそれは、重たかった。
…頑張れ、頑張れよ、俺。
自分にそう言い聞かせながら、ちょうどやってきた電車に飛び乗るべくホームに向かって走り出した。
待ってろよ、バレンタインデー!
俺は絶対に!
………ぜ、絶対、にっ!
白波に逆チョコを渡して…こ、告白、してやるんだ!
小さく握り締めた拳をそのままポケットに突っ込み、閉まりかける扉に滑り込むよう、黄色い境界線を飛び越えた。