ノンシュガー・ノンビター【VD中編】
身体に纏わり付く甘ったるい匂いから逃げるように、ウィーンと機械的な音を立てる自動ドアを足早に通り抜けた。
外の空気は排気ガスにまみれているとわかっていても、店内のものよりはだいぶ新鮮だ。
二、三度深呼吸をし、違和感に気付いた。
…重みなんて殆どないはずなのに、左手がやたらと重たい。
「………か、買っちまった…」
自分の左手にぶらさがるファンシーな袋を眺めてひとり、呟いた。
ピンクと黒のレースが描かれていて、赤いリボンが飾り付けられている可愛い袋。
改めて見ると…どう考えても俺が持つには違和感のあるものだ。
…自分の為に買ったわけじゃ、ない。
さすがにいくら意中の子からチョコをもらえないからってセルフバレンタインを決行するほど落ちぶれちゃいないし…。
いわゆる…最近流行りだした、逆チョコってやつだ。
もちろん、逆チョコをする理由はひとつしかない。