ノンシュガー・ノンビター【VD中編】
しかし俺が否定の言葉を叫ぶより僅かに早く、白波が腕時計に視線を落として小さく声を上げた。
「あ、もうチャイム鳴るね。わざわざお礼言いに来てくれてありがとう、じゃあね!」
「ちょ、待っ…!」
伸ばした手は白波の腕に触れることなく空を切った。
それもそのはずだ。
だって、俺の右手には、白波に渡すはずだったチョコが握られているんだから。
仮に手が届いたって、俺にはその細い腕を掴むことができない。
ふわりと肩先までの髪を揺らし、白波は教室に戻っていった。
その拍子に女子にしては長めのスカートが翻り、引っ込みのつかない俺の手を嘲笑う。
…そんな錯覚さえしてしまうほど、惨めな気分だった。
残された、俺は。
ピンクと黒で模られた袋を呆然と眺めながら、ぽつりと絶望を吐き出した。
「…嘘…だろ……」
本日2度目の失恋岩石に、俺は跡形もなく押し潰された。