ノンシュガー・ノンビター【VD中編】
…でも怯むはずがなかった。
だってこんな視線、いつも浴びていたから。
珍しくもなんともない。
「どっからどう見てもブスだよ、おばさん」
我ながら子供っぽい啖呵の切り方だったけど、十分だったらしい。
顔を真っ赤にした女が高く手を振り上げる。
あたしは半ば諦めたような気持ちでそれをぼんやりと眺めていた。
ネイルアートでかたどられたデコデコの、凶器みたいに鋭く尖った爪がきらりと光って。
平手打ちを覚悟した瞬間、空気がぴりっと震えた。
「夏村!!!」
……あんたがそういうことするから、きっと、
あたしはいつまで経ってもこの想いを掻き消せないんだよ、ばか。
間に割って入ってきた咲々乃の背中を睨みつけて、もどかしい想いを噛み砕いた。
…ああもう、これでまた変な噂が広がるんだ。
ばかみたいに纏わり付く、鬱陶しい、根拠のない噂が。