ノンシュガー・ノンビター【VD中編】


咲々乃に手を引かれたままやってきたのは予想通り、あたしたちの教室だった。

放課後の教室は人がまばらで、平坂のことはすぐに見付けられた。

席から静かに立ち上がるとあたしたちの方に駆け寄ってきた。

小動物のような動きだ。

不安そうに垂れ下がった眉がまた、そういう雰囲気を助長していた。


「平坂が教えてくれたんだよ、お前が絡まれてるって」


…ああ、余計なことを。

黒い感情を吐露して、平坂への恨み言を漏らす。

そんなことしなくて良いのに。

殴られたらあたしだってやり返すくらいの力は持ってるのに。


「夏村さん、大丈夫?」


ありきたりな言葉。

大丈夫って投げ掛ければ良いと思ってるんだ。

別に心配なんかしてないくせに。

そんな捻くれた考えが咽喉の奥にこびりついて、今にも口の外に飛び出してしまいそうだった。
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