ノンシュガー・ノンビター【VD中編】


「…あのさ、」


なにを言おうかなんて考えていなかった。

ただ反論というか反抗というか、その善人ぶった面を歪めてられるなにかを言ってやりたかったのに。

俯いていた顔を持ち上げた瞬間、思わず息を呑んだ。

睨み付けるはずの鋭利な視線は一瞬で丸みを取り戻してしまう。


…いつの間にか、平坂の顔が至近距離まで迫っていた。


少し動けば吐息が顔にぶつかりそうだった。

咲々乃が動揺した…まさに素っ頓狂な声を上げる。

そのまま平坂の唇があたしの輪郭をなぞるように柔らかく滑って、そっと耳に近付いた。

そして咲々乃には到底聞こえない声量で、ぽつりと爆弾を落とした。


「……余計なお世話でごめんね、」


頭の中が瞬時に真っ白になるような衝撃を食らい、思わず身体がよろめく。

そして何の根拠もないままに理解した。

ああ……全部、バレてるんだ。

あたしが咲々乃を避けていたことも、この煩わしい想いも、全部、全部。
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