ノンシュガー・ノンビター【VD中編】
窓の外を見ながら、今日という日に限っては自然なその話題を投げ掛けてくる平坂に溜息を吐く。
…なんて言えばいいのよ、本人目の前にして…。
思わず視線を床に落とすと、平坂があたしの返答を待たずに言葉を続けた。
「皆すごいよね。おれはバレンタインデーってちょっと苦手だなぁ、」
…え。
驚いて顔を上げると、少し気まずそうに笑う平坂を目が合った。
普段は垣間見ない平坂の本音がちらりと、姿を覗かせる。
気付けば教室にはあたしたち以外誰もいなくて、時計の秒針が進む音が聞こえてきそうだった。
野球部の声が夕日に光に混ざって、教室に降り注ぐ。
「どうして…?たくさん貰う、から?」
厭味な言い方だったかもしれない。
そんな危惧をよそに、平坂は小さく首肯してあたしが座っていた隣に腰掛けた。
カタン、と机が揺れる。
いつものぼんやりした瞳とは違う、どこかをまっすぐに見据えた瞳が綺麗で息を呑んだ。