ノンシュガー・ノンビター【VD中編】
でも、誰かのために今も平坂が無理に笑顔を作っているのは、すごく痛々しくて。
だったらもうやめちゃえばいいのに。
そんなの、そんな、作り笑顔。
咽喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込んで、そっと肩口にいる平坂の頭を撫でようと手を伸ばした。
柔らかそうな髪に指先が触れる、―――その刹那。
「…ありがとう、夏村さん」
肩がふっと軽くなる。
そこにわずかばかりの寂しさを覚えて、体温が下がるのを感じた。
不自然に固まった手はなによりもこの現実を理解している。
これ以上は、だめだ。
もともと期待してなかった、望んでなかった、大丈夫、勘違いなんかしない。
ぐっと拳に力を込めて、まだすぐ側にあった平坂の肩を押し返した。
「……帰ろっか、平坂」
こくんと首を縦に振った平坂を見て、大丈夫の意味を込めて小さく笑った。