レモン色の恋【ショートストーリー】
水の中
つばさ君……
みんながそう呼んだ。
つばさ君はすぐにみんなの人気者になった。
プールサイドから私たちを見守るやさしい目。
誰よりも大きな声。
前髪を留めるピン。
私はつばさ君を、まだつばさ君と呼べないままだった。
レモンスカッシュを持ったつばさ君を初めて見たあの日から半年もたつのに……
小学校六年生のわりに大人の考えを持つ私、『あゆ』は、無邪気につばさ君に抱き着いたりすることはできなかった。
もう
子供じゃないもん。
つばさ君は、私たちを子供だと思ってる。
つばさ君をこんな風に見てる私には、気付いていないね。
私は、Bー2っていうクラス。
クロールで25メートル泳げるようになった私は、やっと上のクラスに上がれたんだ。
それからすぐに、つばさ君がやってきた。
……私の前のクラスに。
上がらなきゃ良かった。
上がらなきゃ、つばさ君に教えてもらえたんだ。
隣のコースで、手取り足取り教えてる姿をチラチラと見る私には
きっと誰も気付かない。
広いプールの中で
たった一人の笑顔を
探してしまう。
水の中に体を沈めたまま、顔の半分を水につけて、目だけでつばさ君を見つめる。
同じ水の中にいることが、私の心をドキドキさせた。