憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
いや、そこで拗ねられても困るんだけど。
あたしは若干呆れながら溜息をつく。
「なんとなく、気づいてたし」
「……そうなの?」
「ほんとにちょっとの違和感だけどさ。ヒサって、誰にでも分け隔てなく優しい"イイやつ"だっただろ」
そうだよ。
だって、尚はそう、"完璧"に演じているのだから。誰も気づかない。
誰も、本当の尚自身を知らない。
能天気な千秋は、たまに変なところで鋭いのだ。
何のために、そこまで良い人間の振りをするのか、尚は決してあたしに教えてはくれない。別に、あたしだって興味、ない。
「けどさ、皆に同じくらい優しいっていうのは、……結局皆同じってことじゃん」
「うん」
「だから、俺は。多少ヒサに文句言われても、怒られても、さっきみたいにしてくれたことが嬉しかった」
そう言ってその薄茶の瞳を細めた。
「なんであんなに、自分を隠すのかは知らないけど、理由があるなら少しでも力になってやりたいな」
ぽつりと、呟いた。
彼女の"振り"をするあたしには、決して言えない一言を、尚と友達になりたがる千秋はそう、簡単に言ってのけた。