憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
満足気に尚は目元を細め、あたしの数歩前をすたすたと歩く。
細身の身体に、長い手足。
まるでどこかの雑誌に出ているモデルのような出で立ちだ。その割に、お酒も飲むし結構食べる。一体どういう仕組みになっているのだろう。
―…こっちこそあんたに聞きたいよ。ほんとう、なんであたしなんかに彼女の"振り"をさせるんだか。何を考えているのか理解出来ないわ。
思わず溜息をついた。
ふと、尚が歩みを止める。その先には、カーテンの引かれた研究室がある。ホワイトイエローのライトがその隙間から漏れている。
「ひさ……」
そう声を掛けようとしたとき、尚はあたしを振り返って人差し指をたてて、あたしに喋るなと無言で伝えてくる。
一体、どうしたというのだろう。