憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
あたしは、眉を寄せてそっと研究室の中の様子を窺う尚のもとへ歩み寄る。
中から、複数の女の子達の声が聞こえた。
「尚、どうしたの。おっかない顔しちゃってさ。早く行こうよ」
そういって袖を引っ張った。
けれど、尚はそれに応じない。黙ってそのままそこに立ち続けている。それに首を傾げながら、同じようにカーテンの隙間から室内をのぞき見た。
「……あ」
そこにいたのは、多恵に美香、そして純子だった。
いつもと同じように三人揃って楽しそうにお喋りをしている。
「そういえばさ、こないだ純子に告ってきた男、名前なんだっけ」
むしゃむしゃとポテトチップスを頬張りながら多恵が聞く。
「……え?なんのこと」
「あはは、やだあ、純子ったら!もう忘れちゃったの?」
きゃはは、と笑いながら美香がパシパシと純子の肩を叩く。
本人達は恋バナで盛り上がっているようだけど、端から見れば随分感じが悪い。
自然と、尚と同じように眉間に皺が寄っているのに気づいた。