憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
鍵穴に、鍵を差し込んで回す。
カチャリと音がしたのを確認してドアを押した。
「あれ?開かない……」
ということは、もう鍵は開いていたんだろうか。もう一度鍵を差し込んで、ノブを回せば、ようやくドアは開いた。
ざわりと、風が吹きぬける。
「誰よ、空けっぱなしにしたのは」
開け放たれた、硝子の窓からは桜の花びらが吹き込んでいて、床やテーブルには桃色が散っていた。
春という季節独特の、睡眠薬でもまざっていそうな気だるい風がその窓から入りこむ。
部屋に置かれたソファに座る。
換気も出来て調度いい。
そう思って、あたしは一本の煙草に火をつけて口をつける。真上に向かって肺まで吸い込んだ紫煙をゆっくりと吐き出した。
風にのって部屋を漂う。
もう一口、そう思って煙草を持った手を口元に近づけたその時。
「俺、煙草嫌い」
聞き覚えのない声が、耳元をくすぐった。