憂鬱なる王子に愛を捧ぐ


「ひ、尚、」


研究室内から出てきた尚に慌てて声を掛ける。
怖い顔をしてあたしを見下ろした尚に怯えつつ、あたしは腰が抜けてしまったようにその場から動けずにいた。

「……何で真知が泣いてるわけ」

「え、な……泣いてなんて…」

「ふふ、凄い不細工」

「ひっどい!言うに事欠いてそれ!?」

声を上げながらも目元に手をやれば、じわりと熱い雫が指先を濡らす。
尚は溜息をついて、ぐいとあたしの腕を引いて立たせる。

「静かに。早く行くよ」

そう言って、ふらふらと足取りの覚束ないあたしを、まるで嫌がる犬を引っ張るように無理矢理歩く。

「ちょ、ちょっと、尚!待ってよ!!」

本館から出てもなお、手を離そうとはしない。
そんなあたし達のことを、周囲の人間達が驚いた顔で見ていた。
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