憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

「お願い、待って、腕が痛いって!!」

掴まれているのとは逆の手で、尚を引っ張れば、ようやく尚がこちらを振り返り酷く不機嫌そうに、眉を寄せた。

「……真知は、なんでそんな風に泣けるんだ。信じられない」

「だ、だって!酷いじゃない、純子達!!」

「まあね。……久し振りに、超ムカついた」


尚は、鍵をさしてバイクのエンジンをふかす。
そして、無言のままあたしにヘルメットを投げて寄越した。

きょとんとしていれば、早く乗れと座席を叩く。

え、……ええ!?

「あたし、自分の原付あるんだけど!ていうか、どこいくつもり!?」

尚は、あたしの言葉をまるっきり無視して、ヘルメットを装着する。漆黒のボディの大型バイクに跨る尚は、嫌味なくらいに格好よかった。チキンなあたしは、結局王子の命令に逆らうことも出来ず、おずおずと同じように跨る。

「行くよ」

「い、行くって」

「こうなったら、やられる前にやってやる」

「だから一体なにを!?ちょ、ちょっと尚!」

あたしの叫びもむなしく、尚が一気にアクセルを吹かしたおかげで、ぐわりと重力が身体に掛かる。
バイクはあっというまに大学を後にし、国道をスピードをのせて走っていく。

「ひ、尚…!だからどこ行く気ーーー!?」

ヘルメット越しで聞こえないのか、結局尚は答えることもなく無言のまま。
既にあたしの住む誠東から随分離れた場所まで来てしまっている。

尚は随分と華麗にスピードを出すため、振り落とされないように腰にしがみつくのに必死だ。
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