憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
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ここは一体どこなんだろう。
一度だけパーキングに立ち寄り、それからひたすらに緩やかな道を走り続けて、2時間が経過した。
「尚……」
あたしは、げんなりしながら尚を呼ぶ。
当然のことながら、こちらを振り向くことなく「何」とだけ短い返事があるだけだ。
「どこまで行く気?まさか、あんたこんな場所に住んでるとかじゃないよね」
「まさか。そんな不便な生活はしてないよ」
空では、既に太陽と月がバトンタッチしていた。
夕暮れの中に、薄い色の月と、幾数の星が瞬いている。道も、段々と細く、頼りなくなっていく。ガードレールもなくなり、周囲は鬱蒼と茂る木々ばかりで、気味悪いったらない。
なんだか、段々不安になってくる。
―もしかして、尚は苛立ちすぎて、あたしを殺す気じゃないでしょうね?そこまでのこと、あんたにした覚えはないんですけど!!
た、助けて!
後ろであわあわと自分の想像で脅えきっているあたしに「もう着くよ」と、尚は短くそう言った。