憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

  ***


ここは一体どこなんだろう。
一度だけパーキングに立ち寄り、それからひたすらに緩やかな道を走り続けて、2時間が経過した。

「尚……」

あたしは、げんなりしながら尚を呼ぶ。
当然のことながら、こちらを振り向くことなく「何」とだけ短い返事があるだけだ。

「どこまで行く気?まさか、あんたこんな場所に住んでるとかじゃないよね」

「まさか。そんな不便な生活はしてないよ」

空では、既に太陽と月がバトンタッチしていた。
夕暮れの中に、薄い色の月と、幾数の星が瞬いている。道も、段々と細く、頼りなくなっていく。ガードレールもなくなり、周囲は鬱蒼と茂る木々ばかりで、気味悪いったらない。

なんだか、段々不安になってくる。

―もしかして、尚は苛立ちすぎて、あたしを殺す気じゃないでしょうね?そこまでのこと、あんたにした覚えはないんですけど!!

た、助けて!

後ろであわあわと自分の想像で脅えきっているあたしに「もう着くよ」と、尚は短くそう言った。
< 132 / 533 >

この作品をシェア

pagetop