憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
徐々にスピードを落としながら、緩やかな坂をのぼりきる。
「うわ、大きい……」
なんとも古めかしい洋館が、まるで世界から隔離されたような場所にぽつんと建っていた。
数ある窓のうちの、たった3つからだけ光が漏れていて、その他の部屋はどうやら使われてはいないらしい。尚は門近くにバイクを止めて、無言のまますたすたと玄関への道を歩いていってしまうので、慌ててその背を追いかけた。
「ね、ねえ、ここどこ!?ちょっとは説明してよ!」
いきなり、こんなドラキュラでも住んでいそうな場所につれてこられても困る。居酒屋行くって言っていたくせに!
なんであたし、こんなところにいるのだろう。
けれど尚は相変わらず、鞄を持って後ろに控える召使状態のあたしの質問なんてさらりと流し、仰々しい扉についているインターホンを押した。