憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「はい、どなたでございますか」
「ひさしぶり、美華」
ゆったりした女性の声がそこから聞こえる。
それに尚は、いつものような愛想を振りまくことなく、素の声音で返した。
もしかして、家族の人だろうか。
―え、なに、いきなり初対面!?
妙な緊張が、身体を駆け抜ける。
「あら、まあ!ちょっと待っていてくださいね」
慌てた様子でぷつりとインターホンが途切れたあと、すぐにバタバタと音がして扉がゆっくりと開いた。
そこに現れたのは、少し背骨の曲がりかけた初老の女性だった。
優しげな目元がとても印象的だ。
「驚いたわ。尚さんがこんなに突然お戻りになるなんて……」
「ちょっと用事があって」
「ふふ、久し振りにお会い出来て嬉しいわ。さあ、中にお入りになって」
彼女は心から嬉しそうに笑った。
そして尚も、どこかいつも感じさせるような冷たさも偽りもなく、柔らかい表情を彼女に向ける。
なんだかとても意外だ。
「あら、そちらの方は?」