憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「あ、ええっと、あの、黒崎真知です。尚君、とは……」
なんと答えていいのか分からずに口篭るあたしに、尚が小さく溜息を漏らす。
「……彼女と付き合ってるんだ。今日はここに泊めてやってくれる?大学で同じ委員会に入っていて、この後仕事を一緒にやらなくちゃいけないから」
「ふふ、勿論ですよ。尚さんがお付き合いしてる方に会えるなんて嬉しいですよ。さあ、立ち話もなんですから、中へどうぞ」
案内されて中へと入る。
アンティーク調の館内は、ひっそりと静まり返っていて他に人がいる気配はない。こんなに大きな洋館に、彼女はひとりで住んでいるのだろうか。
メインダイニングには大きな暖炉があって、燃える蒔が時折ぱちぱちという音を立てている。
ゆったりとしたソファに腰掛けるように言われて、尚とふたりで腰を下ろした。
「大したお構いも出来ませんが」
差し出されたウェッジ・ウッドのお洒落なカップには、綺麗な琥珀色をした紅茶がゆったりと波打つ。