憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「ふたりとも、夕飯はもう済んでいるのかしら?」
空になったカップを片付けながら、美華さんが問う。
それに答える前に、あたしのお腹がぐうう、と音を立てて思わず顔が赤くなる。
「ふふふ。よかった。調度、ポトフを作りすぎてしまったの。ぜひ召し上がっていってね」
そう言って、夕飯の用意をするために席を立つ美華さんの背中を見送る。
相変わらず口数の少ない尚をそっとつついた。
「もしかして、あんたの実家?」
「……まあ、そんな感じ。子供の頃、ここで暮らしてたんだ」
曖昧に濁して、尚はぷつりと言葉を切った。
尚の子供時代というのがまったく想像出来なくて、思わず頭を抱える。
―こんな、何考えているかわからないような子供だと、ご両親もさぞかし大変だろうな。
そんなことを考えていれば、思い切りそれが顔に出てしまったみたいで、真横から何の遠慮もなく頭を叩かれた。