憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
それまで尚を取り巻いていた空気が変わった。けれど、あたしはそれに気づかない振りをする。
「彼女なんかじゃないし、ともだちでもない。あたしとあんたは、ただ契約を交わしただけの関係なんだって言わなきゃ。だって、美華さんはあんたのこと本気で心配してるんでしょ」
そこまで言い放ったとき、あたしは尚に思い切り腕を引かれてベッドへと突き飛ばされた。
驚いて目を見開く。
シャンデリアの光が、真上に現れた影によって阻まれる。
「……ひさ、」
尚のツクリモノみたいな美しい顔に見下ろされていた。
いつもみたいなどこか感情の薄い彼じゃない。
確かな"憎悪"をその黒曜石のような瞳に湛えて、あたしをうつすのだ。
押さえつけられたカラダが、恐怖に震えた。