憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

頭が混乱する。

-どうして?何が起こったの?
あたしは、どうやら彼の逆鱗に思い切り触れてしまったようだった。

普段、言い合いなんてしょっちゅうだし喧嘩もする。
けれど、今起こっている状況はこれまでの"ソレ"と違うことは、いくらあたしだって理解出来た。

「そんなことしたら、どうなるかわかる?」

「やめて、」

「……真知がこの契約を破らないようにするためなら、俺はどんなことだって出来るよ」

その、すらりとした細身の体躯のどこにそんな力があるのだろう。
逃げ出そうにも、強く押さえつけられていてビクともしなかった。

窓から差し込む月灯りが、尚の顔を薄く照らす。
こんな状況だというのに変だ。怖くて怖くてしょうがないくせに、あたしはどこか客観的に彼を見ていた。

細く長い指がそっとあたしの頬に添えられて、ゆっくりと首筋をなぞる。こくりと咽喉が鳴った。

「いっそのこと。このまま、無理矢理にでも抱いてしまおうか」

小さく笑みを浮かべてそんなことを言う。
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