憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
素肌に触れた尚の温度は、まるで氷みたいに冷たい。この男は、本当に人間なのかと問いたいくらい。
端整な顔があたしに近づく。
そっと前髪をその手で避けて、短いキスを額に落とした。怒っているくせに、それは酷く優しくて。揺れる瞳を、そっと合わせて見れば、やっぱりビー玉のような透明な瞳がそこにあった。
「尚」
ああ、駄目だ。やっぱりこんなのっておかしい。
結局あたしは、意地悪で、我侭で、無愛想で、それでもいつもの尚に戻って欲しかった。馬鹿じゃないの。なんてお人好し。
どういう言葉を掛ければいいのかなんて分からなかった。ドラマのヒロインのように、相手が望む言葉を咄嗟に掛けてやれるようなことなんて出来ない。悲しいけれど、どんなに頑張ったってあたしはあたしでしかないんだ。
「……そんなつもりないくせに」
心に浮かんだ、馬鹿正直でちっとも可愛げのない言葉をそのまま吐き捨てた。