憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
ふわりと香るラベンダー。大理石で造られた浴槽にはたっぷりとお湯が張られている。乳白色のそれに足先からそっと身体を滑り込ませた。
「……はあ」
なんだか、色々なことがいっぺんに起こりすぎて、頭の中で整理が出来ずにいた。手首を見れば、尚に無理矢理抑えつけられたおかげで薄らと痣が出来ている。
純子のこと、そして尚のこと。
理解なんか出来るはずなくて、あたしはあの時、確かに恐怖を感じていた。襲われるとかそんなんじゃない。
ただ、心の底から彼が理解出来ないと思ったからだ。
「尚があそこまで必死になるこの契約に、どんな大切な目的があるっていうんだろう」
いくら考えたって答えなんて出るはずもなく、すっかりのぼせたあたしはくらくらする頭を押さえながら湯船から出た。