憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

「ここは、尚さんに唯一与えられた場所、なのですよ」

「唯一?」

憂いを帯びた瞳が小さく揺れる。
どうやらあまりにも自分と掛け離れているらしいこの家の事情に、あたしの想像はまったく働かない。

そんなあたしの様子を見ていた美華さんがくすくすと笑う。

「真知さんは、本当に表情がくるくると変わりますね」

「そ、そうでしょうか」

「はい。考えるままに表情が生まれて、裏も表もない。そんな感じです」

「尚には、それでよく馬鹿にされるんですけど」

昔っから、隠し事の出来ない性格だとは言われてきた。それは千秋も同じ。
尚のように上手に演技をして世渡り出来るような器用な性格じゃない。この性格のおかげで、これまでの人生何回損したか今更数えるのも馬鹿らしいくらいだ。
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