憂鬱なる王子に愛を捧ぐ


  ***


美華さんと暫らくお喋りをした後、あたしはお礼を言ってリヴィングを出た。
なんだか酷く悲しい気持ちを引きずりながら廊下を歩いていると、ゲストルームの扉の前に人影がすっと伸びていた。足音に気づいた尚が、ぱっと顔をあげるのが見えた。

「尚、どうしたの?」

暗闇に浮かぶ美麗な顔に表情はない。
先程のこともあってなんとなく気まずくて、あまりじっと見られなかった。

そっと手首を掴まれた。

「痛っ」

「痣になってる」

「……あんたが乱暴にしたからでしょう」

しんと一瞬静まり、そして。
小さく息を吐く音。

「ごめん」

あたしは、思わず大きく目を見開いていた。
何、今の。

聞き間違いじゃないのよね。
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