憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
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美華さんと暫らくお喋りをした後、あたしはお礼を言ってリヴィングを出た。
なんだか酷く悲しい気持ちを引きずりながら廊下を歩いていると、ゲストルームの扉の前に人影がすっと伸びていた。足音に気づいた尚が、ぱっと顔をあげるのが見えた。
「尚、どうしたの?」
暗闇に浮かぶ美麗な顔に表情はない。
先程のこともあってなんとなく気まずくて、あまりじっと見られなかった。
そっと手首を掴まれた。
「痛っ」
「痣になってる」
「……あんたが乱暴にしたからでしょう」
しんと一瞬静まり、そして。
小さく息を吐く音。
「ごめん」
あたしは、思わず大きく目を見開いていた。
何、今の。
聞き間違いじゃないのよね。