憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「今日この場所に来た理由。このパソコンは自作でね。分単位でIP切替を自動設定してあったりプロキシにも色々と手を加えてあるから、アクセス履歴も残らないし逆探知されることもない」
「……はあ(ていうか、あんた何者ですか?)」
「椎名純子は完璧主義だからね。くだらない遊びにも手は抜かない」
尚は、口元に煙草を咥えて火をつけた。
ゆっくりと紫煙があいた窓から流れて消える。
「関係ないって、いったけど。語弊があったね。別にこの手段をとることに、あんたが来る必要はなかったんだ。けど、どうして連れてきたのかは……、説明したくたって自分でも分からないんだ」
「尚……」
呟かれたそれは、まるで独り言のように静かに響く。
尚が嘘を吐いているようには思えなかった。本当に、心から自分の行動が理解出来ないって顔をしている。
「選択肢は2つ。この参考データをちらつかせて脅してやるか、もしくはこのまま黙って状況に任せるか」
「……どちらもいい方法とは思えないけど……」
素直に思ったことを言えば、尚もこくりと頷く。
「俺もそう思う」
「おいおい!提案しておいてなんだそれ!!」
「証拠を入手した過程には色々とまずいところがあるから、圧倒的にこちらの不利にもなりうるし、かといってもたもたしてたら千秋の様子からしてこのままじゃすぐにでも椎名純子の餌食だろうね」