憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
なんとか10分で仕度を終えて(ハタチの乙女なのに!)美華さんにお礼を言って急いで家を飛び出した。
そこには待ちくたびれた様子の尚がヘルメットを抱えて立っていて、あたしを見つけると小さく笑みを浮かべた。
「……それじゃ、飛ばしますか」
「(なんか嫌な予感)」
ごくりと息を呑んだあたしの手を強引に引いて、バイクに座らせる。合図のように、アクセルが吹かされた。
昨日に変わらず、そんじょそこらのジェットコースターなんかより遥かに怖いドライヴィング!車と車の間を器用にすり抜けて行く尚。
そもそも、絶叫が苦手なあたしにとっては地獄以外の何物でもない。
「あんた、スピード狂!?」
「……何……?聞こえない」
風の音が邪魔をするのか、はたまた尚があたしを無視しているのか。
死のドライブ(大袈裟)は一時間以上続いた。
行きよりも遥かにおそろしい。
やっと、誠東の町並が見えた頃にはわたしの意識は違う世界に飛んでいた。尚に掴まる腕の力だけはしっかりしていたけれど。