憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

一瞬空いた間。
淡いサクラ色がのった唇がゆっくりと開いた。

「尚君から何か聞いた?」

驚いて、あたしは大きく目を見開いた。
純子はなんてことない調子で、あたしの様子を窺っている。ごくりと息を呑んだ。

「な、何も聞いてないよ」

「嘘」

「……いきなりどうしたのよ、純子。なんか、変だよ」

「ええ?変なのは真知でしょう。どうしてそんなに怯えきった顔をしてるの」

思わず自分の顔を両手で押さえた。あたし、どんな表情しているんだろう。
純子がくすくすと馬鹿にしたような笑いを零す。

何かを言わなきゃいけないのに、咽喉がからからに渇いて言葉が何も出てこなかった。

「ほんとうに何も聞いてないの?」

「うん」

「じゃあ、その言葉を信じてみようかな」
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