憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
小首を傾げる仕草も、鈴の転がるような声音も。今は、あたしの背筋を凍らせるものでしかなかった。
どうして今まで気づかずにいられたのだろう。
『真知は、何を見てきたの』
以前、尚に言われた言葉が頭を過ぎった。
何を見てきたかなんて。ただ、目の前にあるものを信じてきただけ。疑う必要なんてなかったもの。
「ねえ、真知にお願いがあるの」
「……何?」
「あたしね」
純子が、たっぷりの余裕と笑みを浮かべながらその茶色の瞳にあたしをうつした。