憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

「どうしてよ、真知。酷いじゃないの!」

「ごめんね」

「幼馴染をとられたくないからって、そんなの自分勝手だよ!」

薄っすらと涙を浮かべて、心底悲しそうな顔をつくる。
どこまでもヒロインを気取るつもりなのだ。

ごめんね、尚。
あんたが折角庇ってくれたのに、結局はあたし自身で無駄にしてしまうことをどうか許して。

「千秋のこと、あんたのくだらない駆け引きの駒になんかさせない」

「……」

「人の気持ちを弄ぶのもいい加減にして」

「ふふふ、やっぱり真知は馬鹿ね」

声音が変わった。
そこにはいつものような笑みを浮かべる純子は居なかった。無表情で、だけど口角だけは釣りあげて挑戦的な瞳をあたしへと向ける。

さっきの、今にも泣き出しそうなあの顔はすっかり消え去っている。
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