憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
千秋は首を傾げた後、あたしの奥でソファに腰掛けていた純子を見つけて目を輝かせた(やっぱりムカつく……)
「純子、お前も仕事終わってないの?」
「ううん。先輩から頼まれた資料を纏めていたの」
「そっか、流石だな」
にこっと笑う千秋に、とび蹴りしてやりたい衝動を必死に堪える。楽しそうに話す二人の姿を見るのは、正直やりきれない。
「あたし、行くわ」
「え?もういっちゃうのか?」
「そっか、またね。真知」
ふわりと笑う純子に、ハラワタが煮えくり返りそうだ。
小さく眉を寄せたあたしに、千秋は不思議そうな顔をした。
ばたばたと廊下を走って、外へと飛び出す。
昼間はあんなに晴れていたのに、空は厚い雲に覆われ始めていた。
―明日は、雨かな…。
ゆっくりと、その場でしゃがんだ。
息が切れる。動悸が激しい。
「あんにゃろー!なめんなよ!」
思わず、地面に向かって叫んだ。どうしょうもない、負の感情ばかりが心を締めた。
怒り、嫉妬、悲しみ、出そうになる、涙を飲み込む。
宣戦布告をした。
泣いている暇なんて、もうないんだと自分の中の何かが告げた。