憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
ちらり、ちらりと尚の様子を窺う。
すぐに授業が始まって、尚は無表情のままこちらを見ようともしない。さらさらとシャーペンを動かしながら、講義をノートにメモしている。
(字、綺麗だなあ……)
そんな感想をこっそり持った時だった。
「……千秋、付き合うんだって?椎名純子と」
ぼそりと、あたしにしか聞こえない声音で尚が呟いた。思わず息を呑む。相変わらず、その目はあたしを見ない。
「うん、今朝、千秋から直接聞いた」
「そう。しかも、純子の方から告白したってね」
沈黙が怖かった。
無言で、責められている気がして。
「真知、もしかして。きのう、椎名純子と何かあった?」
「………、ごめん」
はあ、と尚が小さく溜息をついた。
尚にとって、これは想定外の出来事なのだ。無性に悲しくて、あたしは机の下でぎゅっと拳を握り締めた。