憂鬱なる王子に愛を捧ぐ


すっと、雨が止んだ。
驚いて見上げれば、そこには真っ赤な傘があたしに傾けられていた。

その意外な人物に目を見開く。

「紗雪先輩」

「あんた、こんなところで何やってるのよ。お金でも落とした?」

笑いながらそんなことを言って、その色白でほっそりとした綺麗な手で、汚れたあたしの腕を掴み、何の抵抗もなく引き上げた。

「うちくる?」

「え、」

そのツリ目がちな瞳が柔らかく細まった。
それを見た瞬間、止まったはずの涙がまたぼろぼろと溢れ出す。紗雪先輩は、何も聞かなかった。

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