憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
先輩は一人暮らしをしているらしく、大学から数分の距離を歩いただけでマンションに着いた。
傘を閉じたとき、先輩の左肩だけが雨に濡れてしまっているのを見る。いつも怒ってばかりの紗雪先輩の優しさが、今のあたしの心には痛いくらいに沁みた。
シャワーと先輩の部屋着を借りてリヴィングに戻ると、そこにはマグカップ入ったココアが置かれていた。
「洋服、その辺に掛けておいて」
「すみません、ありがとうございます」
くるりと部屋を見渡して、カーテンレールに湿った服を引っ掛けた。
それにしても随分豪華な部屋だ。
大学生の一人暮らしにしては、若干広すぎるくらい。
とはいえ、誠東学園は幼稚舎から大学まで一貫しているお坊ちゃま学園だからこれも不思議な事じゃないのだけれど。(紗雪先輩も更夜先輩も、確か幼稚舎からこの学校に通っている)
ふと、小棚に乗った写真立に目がいく。
そこには、おそらく高校時代だろう制服姿の紗雪先輩と更夜先輩が並んで写っていた。
今より幼い風貌だけれど、ふたりの関係はこの頃から既につづいていたんだな。なんだか嬉しくて、こんな状況だというのについ、顔がニヤついた。