憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「真知は、成長したわね」
少しよ、少し、そう顔を赤く染めながら先輩があたしに言う。
「尚君のおかげかしら」
「……尚は、誰も甘やかさないんです」
仏頂面をする尚が頭に浮かんで、思わず小さく笑ってしまう。
意外だわ、紗雪先輩はそう言った。
ピンポンと、ドアのチャイムが鳴る。
「やっときた」
そう言いながら立ち上がり、先輩が玄関に向かう。
来客が来るなんて知らなかった。
そろそろあたしもおいとましなければ。まだ生乾きの洋服を鞄に無理矢理押し込んだ。
背後に人の気配。
ゆっくりと振り返ると、そこには。
「……尚」
真っ黒な瞳に、呆けたあたしの顔が映った。