憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「ふんだ、自分だってまともに続いたことないくせに」
あたしは、煙草を吸う代わりにジャーキーをがりがりかじり、缶に口をつけるのを繰り返す。
やばいなあ、今日は思ったよりも酒の量がセーブ出来ない。
「俺はいいんだよ、それでもモテるから」
「うざいんですけど、めちゃめちゃうざいんですけど。言っておくけどあたしだってその気になればすぐですよ、あっという間なんですからね」
「はは、なんで敬語なんだよ」
くしゃりと笑う千秋を見て、小さく胸が鳴った。やっぱり、居心地がいいと感じてしまう。
そりゃそうか。
13年もこうして一緒にいるのだから。千秋に心から本気で好きな人が出来たからって、そうそう簡単にこれを崩すことが出来る訳がない。
望む位置に、千秋の隣に、立てないからって。
「真知はさ……、いないの?」
「何がよ」
「だから、そのさ……」
「はっきりいいなよ、苛々するなあ」
駄目だ、どうしても千秋の前で、可愛い自分を演じる事が出来ない。
というか、もともとそんな器用な性格じゃないのだ。もう少し可愛らしく、千秋の前で振舞ってみたりすれば、今現在違った結果が見えていたりしたのかな。
なんて思ったりしても、全部後の祭りなのだけど。
「好きなやつ、とか」
やっぱりどこかどもりながら、千秋は言った。