憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
じゃあな、そう言ってホームから出ていった千秋の背中を黙って見送る。
掛けられる言葉は結局見当たらなかった。
「ぅっ」
「なんで真知が泣くんだよ」
堪え切れずに、嗚咽を漏らしたあたしに尚はうざったそうに呟く。
"酷いよ"
嗚咽は、止まることなく咽喉の奥からせりあがってくるものだから、上手に文句を言うことも出来ない。
呆れたような小さな溜息。
次の瞬間――
「え?」
視界が暗くなって、上品なフレグランスとほのかな紫煙の香りに包まれる。
あたしは、尚に抱きしめられていた。
顔を、細身なのに男の人らしくしっかりとしているその身体に押し付けられた。
みるみるうちに血が昇る。
やばい、今絶対顔真っ赤だ。