憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
―いるよ、千秋だよ。
思わずそう言ってしまいそうになるのを、慌ててチューハイで喉の奥に流し込んだ。
胃液で消化されてしまえ、こんな言葉。
「いないわよ」
キッパリとそう言い切ると、千秋はふんふんと頷きやがった。
「そーだよなー……」
「なにそれ!あ、あんたこそどうなの?最近」
しまった、売り言葉に買い言葉。
自分からこの話題を持ち出してどうするんだ。
「俺、本当は昨日……この話したかったんだよな」
「……うん」
もしかして、とは思っていたけれど。
どうやら千秋は、きのう自分があたしに相談したことをすっかり忘れてしまっているのかもしれない。
「真知以外にいなくてさ、こんな話出来るの」
「嘘ばっかり」
あたしと違って、陽気で社交的な千秋は、あたしの知らない友達が一杯いるくせに。そう言えば、千秋は必死な顔をしてあたしを見つめた。
「本当だぞ」
「はいはい、わかったよ」
不服そうな表情に笑いながら、言ってみろと顎をあげて千秋に先を促す。