憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「なんか、言い合いしてたみたいだから」
「嘘、なんか想像出来ない。ふたりとも常に穏やかに微笑みあってるイメージなんだけど」
「ね。私もそう思ってたんだけど、なんか千秋君は困った様子で、純子も珍しく怒ってる感じだったよ」
「……千秋君が浮気でもしたとか?」
「きゃはは、やだそれ!でも、ありえそう!だったら今度相手役に立候補しちゃおうかな」
好き放題に話続けるふたりに、ぷつりと心のどこかで何かが切れる音がした。居ても経っても居られず、思い切りその場で立ち上がる。
大きな音を立てて椅子が倒れた。
「あ、あの!千秋に限ってありえないですから、そんなこと」
「な、何よいきなり、……て、あなたって確か、」
「いきなり、割り込んじゃってすみません。でも、本当です。絶対に、千秋はそんなことしませんから」
物凄く不愉快だった。
勢いのままに言い放ったあたしを、彼女達は唖然とした表情で見上げるだけだ。
小さく頭を下げて、ざわめくカフェテリアを無言のまま後にした。