憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

聞くに堪えない言葉を遮ったのは美香。それと殆ど同時だった。

それまでの冷静さが嘘のように、尚の漆黒の瞳に激情の光が灯る。
尚は、瞬間的に、デスクに積まれていた大量の資料を多恵と美香の足元に向けて叩き落とした。まるで雪崩のように床を滑り散らばったそれを、一枚手に取って思わず目を見開いた。

ふたりも、ぎょっとした顔でそれに目を落としている。
それには、彼女達の会話が綴られたSNSのコピーに始まり、他にも彼女たちがしでかしたらしい様々な事柄が集められ、印刷されていた。

「どうしてこれを!人のパソコンをハッキングしたの!?」

「……さあ?どうだろう。情報提供者に取得方法は確認していないからそれは知らない」

「あんたがやったんでしょう!しらばっくれないでよ」

「決め付ける前に証拠を見せろ。これ以上、苛立たせるなよ」

地を這うような声音。真正面から二人を睨む。

こんな尚を、初めて見た。
いつも冷静で、感情を乱さない。意地悪で、感情が見えなくて、理解なんて一生出来っこないって思ってた。
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