憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

けれど今は――。

なんだか、無償に泣きたくなってしまうのだ。
悲しくて、悲しくて、けれど、確かに救われた気持ちになる。

「千秋はどこ」

「……言うと思うの?」

「俺に出来ないことなんてないんだよ。覚えとけ」

尚は、紙を一枚手に取り、多恵に向かってひらひらと見せ付けた。
緊張に耐えられなくなったのか、ふたりはそのままずるずると床に敷き詰められた資料の前に座り込んでしまった。
< 272 / 533 >

この作品をシェア

pagetop