憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「やっと、あんたにも好きな女が出来たわけね」
「ようやくな」
「ふふ、ただの遊び人だと思ってたのに…成長したねぇ…」
ふらりふらりと、特定の女を作らずに適当に遊んでいた千秋。
香水の匂いを漂わせてあたしの家に上がりこんだときに、回し蹴りを喰らわしてやったことを思い出す。
「成長かぁ……」
「5ミリくらいだからね。調子に乗らないでよ」
「乗ってねえよ!」
くしゃりと、あたしの頭を撫でたその大きくて骨ばった手に、ほんの少しオトコを感じてドキリとする。
「真知も言えよ」
「何を?」
「だから、もし好きなヤツが出来たり、彼氏ができたりしたらだよ」
「なんで、あんたなんかに言わなきゃならないのよ」
まったく、人の気も知らないで(知られないようにしていたのはあたしだけれど)千秋は笑う。
「水臭いこと言うなよな。俺達、幼馴染なんだし」
「はいはい、わかったよ」
あたしの言葉は、千秋を満足させることが出来たようで、千秋はゆっくりとビールを飲み干した。